上顎洞がんを疑う10のポイント
顔の骨の中には空洞があり専門的には副鼻腔(ふくびくう)と呼んでいます。
副鼻腔に炎症が起こると副鼻腔炎(ちくのう症)です。
鼻の中や副鼻腔にもがんが発生することがあります。
鼻・副鼻腔がんの大部分が上顎洞がんです。
上顎洞は副鼻腔の中では最大の空洞で、頬骨の出っ張りと歯の間にあります。
上顎がんが小さいうちは自覚症状がなく気づきません。
がんが大きくなってくると(ステージIII以上になると)
- 片方の鼻がつまる。
- 片方の鼻から鼻血が出る。
- 片方の鼻から臭い鼻水が出る。
- 物が2重に見える。
- 片方の目から涙や眼ヤニが出る。
- 歯茎が腫れて治らない。
- 歯の痛みが治らない。
- 頭痛が続く。
- 片方の頬が痛い。
- 顔がだんだん腫れてきた。
等の症状が出てきます。
これらのうち当てはまる症状がある場合は耳鼻咽喉科で診察を受けましょう。
上顎洞がんの検査法
鼻から細いファイバースコープを挿入して鼻の中を良く観察します。
スプレーで麻酔をして、細いスコープで観察するため、痛みはさほどありません。
上顎洞を含む副鼻腔は骨で出来た空洞なので、初期の上顎洞がんはレントゲン撮影やCTなどの画像検査を行います。
口の中(天井の硬い部分や歯肉)にしこりがあることもありますので、口の中も良く観察します。
がんを疑うしこりがある場合は少し採集し病理検査組織を行います。
超音波検査で首に転移したリンパ節がないかどうか調べたり、CTなどで肺に転移がないか調べます。
上顎洞がんの治療法
病院によって
- 手術。
- 三者併用療法。(抗がん剤動注化学療法と放射線治療と手術を組み合わせて行う。)
- 超選択的抗がん剤動注療法と放射線治療を同時に行う。
の3つに分かれます。
何が一番すぐれた治療法かは、まだ分っていません。
その理由として上顎洞がんの患者数が少ないことや、色々な治療法が行われているため治療成績の比較がしにくいことが挙げられます。
まずは手術についてお話します。
上顎洞がんの治療法(1)手術
手術ではがんがある部分を取り除いてしまいます。
上顎洞は頬の骨と歯の間にあるので、この部分を取ってしまうと
- がんが小さい時→鼻の中の空洞が広くなる。
- がんが歯の方に大きくなっている時→硬口蓋(口の天井の硬い部分)~歯茎~歯が無くなって、大きな穴があく。
- がんが頬骨の方に大きくなっている時→頬骨の出っ張りがなくなり顔がへこむ。
- がんが目の方に大きくなっている時→目玉が無くなる。
ということになってしまいます。
- 1の時は外見も変わらず、日常生活も特別不便はありません。
- 2の時は口と鼻がつながってしまいますので、そのままですと食べ物が食べられないし飲めません。また言葉もはっきり喋れません。
それでは困りますので、あいた穴をふさぐような大きな入れ歯を使ったり、がんを取り除いた時に穴をふさぐ手術も同時に行ったりします。穴をふさぐ手術ではお腹の筋肉などを移植します。
- 3の時は取った骨の代わりに、肋骨などの骨を移植します。
- 4の時は義眼を入れれるようにします。
大きく取れば取るほど治療後の日常生活に支障が出てしまいます。
次は抗がん剤動注治療と放射線治療を組み合わせた治療についてお話します。
上顎洞がんの治療法(2)三者併用療法
抗がん剤動注化学療法と放射線治療と手術の3つの治療法を組み合わせた治療法は三者併用療法と呼ばれています。
抗がん剤動注療法はがんを育てている動脈(栄養血管)に高濃度の抗がん剤を注入する方法です。
多くの施設で、耳の前の動脈に細いチューブを入れ、抗がん剤を投与する方法が行われています。
投与される抗がん剤の種類、量は施設によって異なりますが。多くの施設でシスプラチンなどのプラチナ製剤やフルオロウラシル(代謝拮抗薬)が使用されます。
たいてい放射線治療も同時に行います。そうして、がんを小さくした後に手術を行います。
手術は前にお話したやり方ですが、縮小したがんに合わせて、切除する範囲を縮小する場合もあります。
上顎洞がんの治療法(3)超選択的抗がん剤動注療法+放射線治療
がんが大きく成長すると、がんを育てる動脈(栄養血管)も増えてきます。
全ての栄養血管に抗がん剤を注入するために行われる治療法が超選択的抗がん剤動注療法です。
足の付け根の血管からカテーテルを挿入し、造影剤を使い栄養血管を確認した後に抗がん剤を注入します。
ほとんどの施設で放射線治療を同時に行います。
病院によっては強度変調放射線治療(IMRT)を行い、眼球に放射線が当たらないようにし、白内障などの合併症を予防しています。
これらの治療でがんが消えたと判断された場合は手術を行わない病院も増えてきています。
重粒子線治療、サイバーナイフ
上顎洞がんのほとんどが「扁平上皮癌」という種類ですが、他に「腺様のう胞癌」や「腺癌」などといったものもあります。
また鼻の中には稀に「悪性黒色腫」という悪性腫瘍ができることがあります。
扁平上皮癌以外のがんは放射線が効きにくいため最初から手術を行うことが多いです。
しかし、「上顎洞がんの治療法(1)手術」でお話ししたように、手術を行うと食べたり、話したりする機能や見た目にかなり影響を与えます。
通常の放射線治療が効かないタイプのがんにも効果が期待できるのが重粒子線治療です。
基本的には「放射線が効きにくいタイプのがんで、手術はできるが術後のことを考えると手術は行いたくない」場合に選択されます。
行える施設がかなり少く、保険診療の対象外です。
サイバーナイフは手術を行うことが難しい場所(周囲に脳や重要な血管や神経がある場合など)や、通常の放射線治療を行った後にがんが残っている場合などに効果が期待できる放射線治療です。
通常の放射線治療に比べ照射する範囲を厳密に決めることができるため、がんの広がりに合わせて照射を行うことができます。
しかし大きく育ってしまったがんをサイバーナイフで治しきることは普通できません。
がんの大きさが親指の頭より小さい時に効果的です。