咽頭がんについて
咽頭がんを疑う7つのポイント
咽頭とは鼻の奥から食道の入り口までを言います。
3つの部分に分かれていて上から「上咽頭」「中咽頭」「下咽頭」と続きます。
がんが咽頭のどの部分にできるかによって症状が異なりますが、咽頭がんを疑う症状としては
- 片方の耳のつまった感じや、難聴が続いて治らない。
(成人の場合、上咽頭がんが原因で中耳炎になる事があります)
- のどの一定の場所に異物感や違和感があり治らない。
- 食べ物を飲み込む時にいつも同じところが痛かったり、しみたりする。
(飲み込む時に耳の奥が痛いと感じることもあります。)
- 食べ物が飲み込みにくい。
- 片方の扁桃腺だけが大きくなってきた。(痛くない場合もあります)
- 声がかすれて治らない。
- 首にしこりができて大きくなってきた。
などがあります。
これらのうち1つでも当てはまる症状がある場合は耳鼻咽喉科で診察を受けましょう。
また、ヘビースモーカーやたくさんお酒を飲まれる方は下咽頭がんのリスクが高いため年に一度は耳鼻咽喉科でのチェックをお勧めします。
「痛くないから大丈夫と思っていた」という方が多くいらっしゃいます。小さいうちは痛みを伴わない事が多いので注意して下さい。
咽頭がんの検査方法
口を開けて鏡で見ると扁桃腺(口蓋扁桃)やのどちんこ(口蓋垂)を見ることはできますね。
なので、ご家庭でも咽頭がんのチェックをすることは可能です。
しかし、チェックできるのは中咽頭の一部だけです。
咽頭全体を詳しく観察するためには、ファイバースコープでの観察が必要です。
スプレーで麻酔をした後に鼻から挿入するため挿入感も少なく、細いため痛みもさほどありません。
のどにがんを疑うようなしこりがある場合は、しこりの一部を採取して病理検査に提出します。
首に転移がないかどうか超音波検査を行ったり、がんの大きさを調べるためにMRIを行ったり、肺などに転移がないかCTを行ったりします。
咽頭にがんがある方は、食道にもがんを生じやすいので胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)も行っておいたほうが良いでしょう。
上咽頭がんの治療
鼻の奥の咽頭が「上咽頭」です。
上咽頭がんは抗がん剤と放射線がとても効きやすいがんです。それらの治療を組み合わせた化学放射線治療を行う事が一般的です。
化学療法は、多くの施設でシスプラチンやネダプラチンなどのプラチナ製剤やフルオロウラシル(代謝拮抗薬)が使用されます。
放射線療法は1日1回の治療を、週5回、6~7週間ほど行います。
施設によっては強度変調放射線治療(IMRT)を行います。
強度変調放射線治療は、がんの部分には多くの放射線を、正常の部分には少ない放射線を照射することができる照射法です。通常の放射線治療に比べて唾液を作っている「耳下腺」への照射を抑えることができるため、放射線治療後の合併症である口やのどの乾燥をある程度防ぐことができます。
強度変調放射線治療の場合ですと、化学放射線療法で上咽頭のがんや頸部のリンパ節転移は9割以上治すことができます。
しかし、上咽頭がんは肺や肝臓や骨などに比較的遠隔転移しやすいがんです。
遠隔転移が出てくるかどうかで予後が大きく変わってきます。
中咽頭がんの治療法
中咽頭がんは「扁桃腺」や「舌の奥」や「のどちんこ(口蓋垂)」などにできます。
中咽頭がんは上咽頭がん同様に放射線がとても効きやすいがんです。
抗がん剤は上咽頭がんと比べると効き目が悪くなります。
そのため中咽頭がんの治療は
に分かれます。
最近の傾向としては1.の治療法を選ぶ病院が増えてきています。
化学放射線療法は上咽頭がんの場合と同様です。病院によっては強度変調放射線治療を行います。
手術の方法はがんの大きさによって変わります。
中咽頭がんは口を開けると見える部分にできることが多いので比較的早期に見つかる場合もあります。
早期の場合は口の中から手術で取ってしまう事もあります。
また、最近はファイバースコープが進化し、極早期のがんも見つかるようになりました。
そのような小さながんは、がんができた粘膜をはがし取るようにして切除します。
がんが進行している場合は取ったところを体の他の部分を移植して補います。お腹の筋肉を移植することが多いです。ほとんどの場合、同時に首のリンパ腺を切除します。
下咽頭がんの治療法
下咽頭は「のどぼとけの骨」のあたりにある咽頭です。
下咽頭にがんができてもなかなか気がつかないので、病院に来るころには進行がんになっていることが多いのです。
声帯がある「喉頭」と下咽頭は隣同士のため、下咽頭がんが進行すると喉頭までがんが進展します。
下咽頭がんは放射線も抗がん剤もそこそこ効きます。
そのため下咽頭がんの治療は早期の場合は化学放射線療法、進行している場合は手術が一般的です。
手術では癌のある下咽頭、下咽頭の先にある食道の一部、下咽頭の隣の喉頭を摘出する方法が多くの下咽頭がんで選択されます。
切除された咽頭や食道は、腕の皮膚や腸などを移植して再建します。
喉頭がんのところでお話ししたように、永久気管孔という呼吸する穴を首に作ります。
ほとんどの場合に、首のリンパ節も一緒に切除します。
下咽頭がんで声を喪失しないためには(1)化学放射線療法
下咽頭がんは抗がん剤や放射線治療がそこそこ効きます。
早期の場合は放射線療法のみで、ある程度進行していても化学放射線療法で咽頭のがんを治せる場合があります。
ただし、首のリンパ節に転移したがんは化学放射線療法が効きにくいです。
残ってしまった場合は後で手術が必要になります。
化学療法は、多くの施設でシスプラチンやネダプラチンなどのプラチナ製剤やフルオロウラシル(代謝拮抗薬)が使用されます。
放射線療法は1日1回の治療を、週5回、6-7週間ほど行います。
放射線治療中はモルヒネを使用しないと、取れない痛みが出現することが多く、口から食事が食べられなくなることがあります。そのような場合、以前は放射線治療を一時中断していましたが、放射線治療は休まず行った方が効果が出ることはわかっていました。
そのため最近では、化学放射線療法の前に、胃瘻という流動食を入れる穴をお腹に作っておき、食事が口から食べられなくなった場合には胃瘻から流動食を入れてなんとかしのぎ、治療を継続する方法をとる病院が増えてきています。
お腹の穴はお口から食事が食べられるようになれば塞ぐことができます
下咽頭がんで声を喪失しないためには(2)下咽頭部分切除術
下咽頭の隣には喉頭があります。下咽頭がんが進行すると喉頭にも浸潤してきます。
がんが喉頭に浸潤していないか、浸潤していても少しの場合には、喉頭の一部~全部を温存して、下咽頭のがんのある部分だけを切除することができます。
切除した部分が小さい場合は縫い縮められますが、ある程度欠損がある場合は腕の皮膚や腸の一部を移植する必要があります。
この手術では声は残すことができますが、食べ物を飲み込む機能がある程度低下するため、手術後は飲み込みのリハビリが必要です。
そのため患者さんがご高齢だったり、体力がなかったり、リハビリなどに対してやる気がない場合は、この手術はおすすめできません。
下咽頭癌で声を喪失しないためには(3)経口的下咽頭部分切除術
内視鏡(ファイバースコープ)の進歩により最近では早期の下咽頭がんが見つかるようになりました。
前にお話したように早期がんには放射線治療が治療の中心となりますが、最近では経口的下咽頭部分切除術という手術法を行う病院が増えてきました。
この方法は、口から拡大喉頭鏡というのどを広げて見えやすくする器具を入れ、内視鏡やレーザーなどを使用して、がんの部分を剥がし取るような方法です。
食道がんの内視鏡治療を咽頭がんに応用したものです。
口から器具を入れるため首を切開しません。
まだ十分確立された治療法とはいえないため、日本では進行がんには行われていませんが欧米では進行した下咽頭がんもこの方法で切除する報告もされています。
下咽頭癌で声を喪失しないためには(4)超選択的抗がん剤動注療法
通常の化学放射線療法ではかなり進行してしまった下咽頭がんには効果がないため、普通は喉頭・下咽頭・食道の一部を切除する手術が行われます。
しかし、患者さんが手術を希望されない場合や、手術が出来ないほど進行してしまっている場合に超選択的抗がん剤動注療法を行う施設もあります。
下咽頭がんを育てる動脈(栄養血管)にカテーテルを通してそこから大量の抗がん剤を流し、同時に放射線治療も行います。
咽頭のがんにはとても効果的ですが、首のリンパ節に転移した部分にはそんなに効果がありません。
そのため後で首のリンパ節を切除する手術が必要になることがあります。
詳しくは口腔がんの時にお話ししたところをご覧くださいね。